思わず筆を握りたくなる、銀座の画材店。

月光荘画材店(地図

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「銀座はお金持ちの溜まり場」なんて概念が染みついているかもしれないが、ちょっと横道を覗くと、高級ブランドのお買い物とは変わった楽しみが眠っている。銀座8丁目に店舗を構える「月光荘画材店」(以下:「月光荘」)もその一つ。木を基調とするあたたかな内装にジャズがかけあわされ、入った途端都会の喧騒をすっと忘れさせてくれる、心温まる空間である。

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DSCF1630驚くことに「月光荘」のはじまりは、創業者の橋本兵藏さんと日本を代表する歌人、与謝野晶子さんとの出会いにあった。それも不思議な巡り合わせで、富山県生まれの橋本さんが上京した際に、住み込みで働き始めたお家のお向かいが、たまたま与謝野さんのお宅だったのだ。

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これをきっかけに、橋本さんはいつしか与謝野さんを中心に集まる文化人たちにかわいがられるように。そうしてかねてから色の感覚が鋭かった橋本さんに、彼らは「画材店」を開くことを提案。そのアイディアに胸をときめかせた橋本さんは、1917年に与謝野さんご夫婦が命名した「月光荘画材店」をオープンしたのだ。

当時の文化人たちの支持を受け誕生した「月光荘」。ここの大きな特徴は、丁寧に作られた自家製品のみを取り扱っているというところ。その勲章として、どの商品にも「ホルン」のシンボルが刻み込まれている。はるか昔、ヨーロッパでは狩りに出るとき、ホルンで仲間を呼びあったと言う。宣伝などをせず、良い物は良いと口伝えに仲間の輪が広がっていくことを願い、「友を呼ぶホルン」というトレードマークが付けられたのだとか。

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お店の一階部分には、本物の輝きを誇る油絵の具と水彩絵の具から、4種の紙質と6種の表紙の色を選べるスケッチブック、天然毛の絵筆、そしてそれらを持ち運ぶバッグまで、絵描きの必需品が一式揃えられるようになっている。

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「棒人間以上の絵は求めないで」というあなたには、レターセットや創業者の橋本さんが岐阜に暮らす陶芸家の小栗正男さんと一緒に編み出した、持ち手が特徴的で使い心地抜群の美濃焼きマグカップ(橋本さんは晩年までこれを愛用し続けたそう)、それから「月光荘サロン 月のはなれ」で使われている食器類もお買い求めできるので、絵が描けなくたって一切疎外感を感じないのだ。さらには普段だったらHBの鉛筆を握るところ、ここでは物凄く太い8Bの鉛筆のご用意が。どれだけ強く握るかによって線の太さを調節できる作りになっている。このような珍しい商品を目にすると、絵心がないとわめいていた人だって、真っ白なキャンバスに何か描きたくなってしまうのだ。

「月光荘サロン 月のはなれ」の記事はこちら

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橋本さんが晩年まで愛した美濃焼きマグカップ

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8Bの鉛筆

そうしてお店の外にある階段を下ると、小さなカフェと手紙類の販売が主となるスペースにたどり着く。「月光荘」のポストカードには、どれも心がぽっと温まる「詩」が付け加えられている。この「詩」に加え、橋本さんは取り扱っている商品を新聞のようなレイアウトにまとめて印刷し、店舗で配ったりプレゼント包装の代わりにしていたらしい。現在は製造を停止しているが、当時配布していたものがスケッチブックの裏表紙に収められていて、スケッチブックの種類や販売時期によって切り取り部分が異なるのだという。創作物を生み出すツールであるスケッチブックにこのようなひねりが秘められていると、容易く胸キュンしてしまうだろう。

絵を静かに眺めていたいという方には、3つのギャラリーと、「月光荘サロン 月のはなれ」で2週間に1度入れ替わるアート作品達を楽しむ事ができる。さらには「月光荘」への訪問で「下手でもいいから絵が描きたい」という気持ちが芽生えたあなたへ是非オススメなのは、「月光荘」の画材を自由に使ってお絵描きができてしまう、月光荘から徒歩30秒の「アトリエ・エムゾ」。画材なしでも参加できる「ワークショップ」や、すでに画材をお持ちの方向けの「教室」のご用意もある。

「月光荘」は、絵とは一切無縁だった人までもが、絵を描くため、大切な人に手紙を送るため、日記をつけ始めるため…など各々の理由でつい筆を握ってみたくなる場所で、もちろん絵描きにとっても第二のおうちのように定期的に足を向けてしまうお店なのだ。

月光荘画材店 (地図)

営業時間:11:00-19:00
定休日:水曜日(1F画材売り場のみ)
アクセス:東京メトロ銀座線、日比谷線、丸ノ内線「銀座駅」A4出口から徒歩5分
公式サイト:http://gekkoso.jp

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